POOHの世間話コーナー

ウッドストックに行ってきました/その4

 ベアズヴィル・シアターの中は壁や天井に明るい色調の天然木と思われる材が使われており、暖かいアット・ホームな雰囲気。寒い戸外から空調設備の整ったホール内に入ったばかりなので、余計にそう感じたのかも知れません。広いホール・ロビーにある大きなカウンターではアルコール類も含め、各種の飲み物が売られています。ジェーンと私は、中央だけれどかなり後方の席を3つ確保しました。ハッピーは前方の通路で知り合いらしき人物と話しています。その内、開場待ちの列の後ろに並んでいたアーティとビヴァリーも入って来て客席をキョロキョロ。「こっちこっち」という感じで手を振って我々5人は前後2列に分かれて座りました。ステージにはキーボードが中央と右端に1台ずつ、中央奥にドラム・セット、各種アンプ類と多数のマイク・スタンドが並んでいます。勿論、ホールは満員です。9時を10分くらい過ぎてから照明が消えると、観客の拍手が沸き起こります。そして、ガース・ハドスンの今回のソロ作をリリースしたブリーズヒル・レーベルの代表者であるライアン氏による短い挨拶があり「それではお楽しみ下さい」と言い終えると再び拍手と大歓声。

 オープニング・アクトはグレアム・パーカー。エレ・アコによる弾き語りのソロ演奏で40分ほど。悪くなかったんですが、やっぱりサポート・バンド付きで見たかったなぁと思いました。次にプロフェッサー・ルーイ&ザ・クロウマティックスが登場。プロフェッサー・ルーイこと、アーロン・L・ハーウィッツは近年のザ・バンドのアルバムをプロデュースし、今回のガースのソロ作『THE SEA TO THE NORTH』もガースと共同プロデュースしています。プロフェッサー・ルーイ&ザ・クロウマティックスのアルバムを聴いて以来、リチャード・マニュエルもリック・ダンコも居なくなり、リヴォンヘルムが喉頭癌の為に歌えなくなってしまった今となっては、ザ・バンドの音楽の伝統を最も良い形で受け継いでいるグループであると感じていました。そして、それは当夜の彼等のライヴ・パフォーマンスにも充分に現れていて、スター・プレイヤーは居なくてもグループとしてカチッとまとまった鉄壁のバンド・サウンドが野太いグルーヴを生み出していて、うねるように会場を包み込みました。彼等の演奏そのものは良かったのですが、1つ難を言えば「演奏時間が長過ぎ」ました。一体「今夜のコンサートのメイン・アクトは誰なの?」という程の長時間にわたるステージだったのです。しかも、最後の方で前もってちゃんとした紹介も無いまま、当夜の主人公(である筈)のガースが登場して舞台向かって右端のキーボードをプレイし始めたのです。多くの観客が私と同様に「えーッ、どーなってるの? このままガースのソロ・パフォーマンスに移行して彼等がバック・アップにまわるの?」と思った事でしょう。演奏の後にプロフェッサー・ルーイが「ミスター・ガース・ハドスン!」と紹介した時も拍手に勢いが無く、観客の中に戸惑いがあるのが見てとれました。

 ともかく彼等の演奏が終わり、ここで休憩との事。トイレはごった返し、ロビーはタバコの煙で一杯。今の気持ちでは一番ウーロン茶が飲みたかったんだけれど、そんな物は売ってないのでジンジャエールをオーダーし、飲みながら「ガースの演奏がこれからなら終わるのは何時頃だろう」訊くと「さぁ、判らない。でも、今日中には終わらないな」とハッピー。20分くらいはあったと思う休憩が終わって座席に戻ると、明らかに2割程度はお客さんが減っています。遅くなったので帰った人がいるのです。照明が落とされ、再びライアン氏による挨拶とガースの正式な紹介があり、大歓声の中ガース・ハドスンとプロフェッサー・ルーイ&ザ・クロウマティックスを中心としたサポート・メンバーが登場。フィドルにラリー・パッカー、ヴォーカルにガースの奥さんのモード・ハドスンの顔も見えます。ガースの初ソロ『THE SEA TO THE NORTH』をお聴きの方はご存じの通り、収められた各作品は長い曲が多く、アレンジも凝っている訳ですが、大所帯の当夜のバンドにも拘らず、ごく細かいミスは幾つか見てとれたものの、かなりのリハーサルを積んでいたのでしょうか、見事なまとまりを見せていました。スタジオ録音の再現といった以上の、ライヴならではのスケールの大きい演奏は、やはり格別のもので「来てよかった」としみじみ思いました。モードさんのヴォーカルもバンド・サウンドに上手く溶け込んでいたし、同アルバムに入っているグレイトフル・デッドのカヴァー「Dark Star」ではガースの語るような歌いぶりのヴォーカルも聴けましたし.....。

 コンサートが終わり(午前1時近かったと思います)、席に座ったまま余韻に浸っているとハッピーが近寄ってきて、バックステージに行ってガースに挨拶しようという事に。舞台そでの階段を上がって中に入ると、既に関係者とファンでごった返しています。ガースは訪れた友人やファンに疲れた表情も見せず、笑顔で応対しています。当夜の彼の服装は『THE SEA TO THE NORTH』のジャケットのイラストと同じで、上から下まで真っ黒。それに、怪傑ゾロが被っているのと同じような(すみません、語彙が豊富でなくて)黒い帽子も、ジャケットと同じ。人だかりが少し減ったところで、ハッピーが「やぁ、ガース」と挨拶。「やぁ、ハッピー。来てくれたのかい」と応えたガース。多くの人との話が一段落したからでしょうか。それとも、気心知れた長年の友人であるハッピーの顔を見たからでしょうか。明らかに気を許しているという感じで、疲れた様子を隠そうとしなかったのが印象的。まぁ、アレだけの演奏をして疲れているのは当然なんですが。ハッピーがコンサートを見る為にはるばる日本から来たと紹介してくれると「本当に? そりゃあ光栄だ。楽しんでもらえたかな、POOH」とガース。「勿論、とても楽しかったし、素晴らしかったです。あなたの新譜を日本を発つ前に何度も聴いていたので、余計に楽しめました。本当に来た甲斐がありました」と話をしてハタと気づきました。サインが貰える機会があればと思い、その『THE SEA TO THE NORTH』のCDを日本から持って来ていたのに、ボストン・バッグに入れたままです。ドジな私。

 それから、我々2人はハッピーの家に帰りました。「ジェーンは眠ってるみたいだから、今夜はこれで。明日は好きな時間に起きたらいいよ。あんまり起きてこないようなら起こしてあげるから」「ありがとう。おやすみなさい」と、それぞれの部屋に行き、私の長い8月24日(金)が終わったのでした。

 

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