これは、中川五郎さんに送って頂いた原稿です。 アルバムのジャケットはこちらで用意させて頂きました。

 

 何年か前、ぼくと同じ世代の友だちや知り合いが相次いで亡くなり、それで何度も続けてお葬式に行ったことがあった。お葬式といってもいろいろで、大きな葬祭会場でやたらと形式的に行なわれるものもあれば、つれあいを亡くした人が自宅にみんなを招き、自分たちだけで自由に執り行うというものもあった。お葬式への出席が何度か続くと、亡くなった人が自分と同世代、あるいは自分よりも若い人ということもあって、自分がいざ送られる立場になったらどんなふうにしてもらいたいのか考え始めるようになった。そしてあるお葬式の帰り道、ふと歌詞が浮かびあがり、ぼくはそれをもとにして歌を作った。

 そのお葬式は、70年代に渋谷のブラック・ホークでイギリスのトラッドやシンガー・ソングライターたちのレコードをかけ、みんなに素晴らしい音楽を紹介していた松平維秋さんのお葬式で、葬祭用の会場を借りて行なわれたものの、宗教色はまったくなく、形式的な進行も一切なくて、柩の中では大好きだったシャーロック・ホームズ姿で松平さんが眠っていて、会場には彼が大好きだったトラッドの音楽が静かに流れていた。それは悲しくも、とても愛に満ち、不思議と心が優しくあたたかくなってくるお葬式だった。その帰り道にぼくが思いついた「ぼくの遺書」という歌は、次のような歌詞で始まっている。

「ぼくが死んだらお葬式はしないで/型にはまった時間に追われるお葬式は/ぼくが死んだのを悲しんでくれる人が/みんなで集まって飲んで騒いでほしい/かけるレコードは『ブルー・リバー』がいいな/ブルー・リバーのようにミドル・リバーも流れていったよ/流すビデオは『トト・ザ・ヒーロー』がいいな/ぼくも空を飛んで地上のみんなを見下ろしたい」

 前置きがずいぶんと長くなってしまったが、ぼくがこの世を去る時にかけてほしいレコード、つまりこれまでの人生でいちばん好きなレコードは、エリック・アンダースンが1973年に発表したアルバム『Blue River』だ。このアルバムは発売された当時、ほんとうによく聴いていた。愛やさすらい、家庭を築くことや子供を作ることなどが歌われていて、ちょうど20代前半でそうしたことを体験していたぼくにとっては、彼の歌はそれこそ人生のお手本のようなものになっていたと思える。

 それ以前、そもそもぼくを音楽に向かわせたレコード、すなわちいちばん最初に好きになったレコードということになると、ピート・シーガーの1963年のアルバム『We Shall Overcome』だろう。中学生だったぼくはカーネギー・ホールでの彼のコンサートの模様が収められたこのライブ・アルバムを繰り返し繰り返し何度も聴き、アメリカのフォーク・ソングの真髄を学び、自分でも歌を作ったり訳詞したりして、やがては人前で歌うようになっていったのだ。

 もう一枚、好きなアルバムを選べるというなら、今いちばん好きなアルバムを挙げておこう。それはロン・セクスミスの2002年の最新作『Cobblestone Runway』だ。カナダ出身のこのシンガー・ソングライターのアルバムに関しては、90年代なかばから後半にかけて、彼がミッチェル・フルームをプロデューサーに迎えて作った作品を高く評価する人が多いようだが、この最新作もそれらに勝るとも劣らず素晴らしい。イギリスで活躍するポップ系のプロデューサー、マーティン・テレフェによってちょっとお洒落なサウンドになってはいるものの、今回は収められている曲がほんとうに素晴らしい。それもとりわけラブ・ソングが最高で、妻と別れ、新たな愛を見つけたロンの最近のことをぼくがよく知っているからかもしれないが、別れや出会いが歌われた彼のリアルで正直な愛の歌の数々は、聴けば聴くほど心に沁みてくる。

 と、以上がぼくの大好きな三枚。女性アーティストが大好きなはずなのに、全部男性のアルバムになってしまった。今度は女性アーティストの大好きなアルバム三枚ということで選ばせてくださいね。

 

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