●トム・パチェコ&ステイナー・アルブリグトゥセンのアルバム『ノーバディーズ』
 (スライス・オブ・ライフSLCD-1010)の7曲目に収録された「テディ・ルーズヴェルト/
 Teddy Roosevelt」は、1898年の米西戦争を題材にしています。歴史的背景など
 注釈の必要な事柄が多いですので、下記に記載しました。参考になさって下さい。

7. テディ・ルーズヴェルト/ TEDDY ROOSEVELT

1898年のあの戦争(注1)の時、俺は17歳だった
5月1日(注2)、ランドルフ・ハースト(注3)の新聞で読んだんだ
スペイン人がキューバ人を痛めつけていると
俺はT.R.(注4)率いるラフ・ライダーズ(注5)に志願して
サン・ホァン・ヒル(注6)へ赴いた
白馬にまたがり
陣頭に立っていたあいつの姿は
あいつが崇拝していたバッファロー・ビル(注7)そのもの
「メイン号(注8)を忘れるな」
誰かが叫んだその瞬間
弾丸が俺の膝を貫いた
けれど馬から降りたりはしない
キューバが解放されるまで
彼等が戦いに勝つ日まで
テディ・ルーズヴェルトはヒーローなんかじゃない
あいつはただの愚か者さ

デューイ(注9)はマニラ湾を封鎖して
フィリピンを手に入れた
おまけにプエルト・リコまでも
ニューヨーク・シティでは大パレード
パリの講和条約で
スペインはすべての植民地を失った
ジェシー・ジェイムス(注10)の兄のフランク(注11)だって
略奪行為を称賛してたじゃないか
フロンティアが開拓し尽くされた今
欲にまみれた財閥は言う
「ウォール街の恐慌から身を守るため
我々に必要なのは帝国である」
キューバ人は何ひとつ得ることなく
うすのろ扱いされただけ
テディ・ルーズヴェルトはヒーローなんかじゃない
あいつはただの愚か者さ

ホセ・マルティ(注12)とゴメス(注13)は見た
星条旗が揚がるのを
そして再び祖国が植民地となったのを知った
30年以上にわたる勇敢な戦い
しかし独立の夢は塵と消えた
アメリカ人はガトリング砲(注14)と砲艦を装備して
神のように君臨した
グァンタナモ(注15)に基地を作り
軍政の法を敷いた
「昔ながらの戦いにまさるものなし」
テディはそう言って残酷に笑った
テディ・ルーズヴェルトはヒーローなんかじゃない
あいつはただの愚か者さ

革命家たちは61年間
独裁者が現れるたびに
岩山にこもって戦い続けた
カストロがハバナを落とした1959年
78歳になった俺はヴァーモント州の自宅で
TVに向かってワイングラスを掲げた
ブラウン管に映る彼の姿
黒いあごひげと大きな葉巻
見たこともないような極貧の人々が
大通りに出て喝采を送っている
大きなカジノを閉鎖し
マフィアの資金源を断ったカストロ
テディ・ルーズヴェルトはヒーローなんかじゃない
あいつはただの愚か者さ

自分の行いはやがて自分に跳ね返る
そうした宿業(カルマ)が本当ならば
天国へ行ったマルティとゴメスが
すべてを水に流すことはないだろう
キューバの地を血で汚し
食い物にしてきた連中
奴等の家系には一人残らず
苦難の遺伝子が組み込まれるだろう
フランクリン・ルーズヴェルト(注16)はポリオを患い
パティ・ハースト(注17)は過激派になった
ピッグス湾事件(注18)が遺したものは
謎に包まれたあの11月のダラス(注19)
歴史の授業でなんと教わろうが
テディ・ルーズヴェルトはヒーローなんかじゃない
あいつはただの愚か者さ

(注1) the War:米西戦争のこと。
(注2) on May first:アメリカ軍がマニラ湾を占領した日。
(注3) Randolf Hearst:1863-1951。米国の新聞社オーナー。「San Francisco
 Examiner」を発行。「新聞王」と呼ばれ、映画『市民ケーン』のモデルとなった人物。
 yellow journalismの生みの親。この戦争に関しても煽情的な報道をしていたと思われる。
(注4) T.R.:セオドア・ルーズヴェルト大統領のこと。
(注5) Rough Riders:ライナーノートの訳註参照。
(注6) San Juan Hill:キューバ南東部、Santiago de Cuba付近の丘。米西戦争戦跡。
(注7) Buffalo Bill:1846-1917。本名William Frederick Cody。米国の伝説的人物
 の一人。辺境開拓者として勇名をはせる。南北戦争時代は北軍の斥候としても活躍。
(注8) the Maine:1898年2月15日、キューバのHavana港で爆破された米国艦船。この
 事件がきっかけとなり米西戦争に発展した。
(注9) Dewey:George Dewey,1837-1917。米国の海軍大将。米西戦争時、マニラ湾で
 スペイン艦隊を撃破。
(注10) Jesse James:1847-82。米国の無法者。ミズーリ州の銀行強盗、列車強盗で悪
 名を轟かせる。悪人ではあったがどこか人に愛されるところがあり、「ミズーリのロ
 ビン・フッド」として死後英雄視された。
(注11) Frank James:Jesseの兄。Jesseと一緒に銀行強盗を働いた。
(注12) Jose Marti:1853-95。キューバの詩人、独立運動指導者。
(注13) Gomez:Maximo Gomez。対スペイン10年戦争の英雄。
(注14) Gattling guns:1870年代に開発された実用的な機関銃。
(注15) Guantanamo:キューバ東部にある同名州の州都。戦略上重要な位置にある。
(注16) Franklin Delano Roosevelt:1882-1945。第32代アメリカ大統領。妻の
 A.E.RooseveltはT.Rooseveltの姪に当たる。1921年小児麻痺にかかり、闘病生活を余
 儀なくされる。
(注17) Patty Hearst:★3の孫娘。1974年、Symbionese Liberation Army(シンバイ
 オニーズ解放軍:米国カリフォルニア州を中心に1970年代初めに活動した左翼過激派
 組織)に誘拐され、その後同派の銀行強奪事件に加わったかどで有罪判決を受け、の
 ち釈放された。(wear Che's Beret=「チェ・ゲバラのベレー帽を被った」、つまり
 「ゲバラの思想に染まった」ということだと思われます)
(注18) The Bay of Pigs:1961年4月、ケネディ政権に支援されたキューバの反革命分
 子がこの地を侵攻したが、キューバ軍に撃退され失敗した。
(注19) Dallas:言わずと知れたケネディ大統領暗殺の地(1963年11月22日)。暗殺の真
 相は謎に包まれていますが、lead to と書かれているところを見ると一連の対キュー
 バ政策が誘因になったと、この曲の主人公は考えているのでしょう。


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