POOHの世間話コーナー

エリック・カズ初来日ツアー滞在記 その8
 - 取材の日 -

 翌日の9月13日(金)は、エリックが日本の音楽メディアからの取材を受ける日。招聘元のトムス・キャビンのご厚意で、ツアー・スケジュールを決める時から、コンサートのない東京でのオフの日1日を取材日として確保しておいて頂いたのでした。ハジメ氏も当日お手伝いしてくれる事になっていましたが、前もっての各メディアの方への連絡や時間調整も含めて「すべてスライス・オブ・ライフで仕切る」ことになっていました。6月25日に発売された『1000年の悲しみ』リリース連絡の際、音楽雑誌各社には前もって「エリック・カズ本人への取材をして頂けます時はご一報下さい」とお知らせしたのです。すると、先ずレコード・コレクターズ誌さんが「国際電話でインタビューして、それを来日前の号に掲載したい」との有難いオファーがあり、レココレ編集長の寺田さんとインタビューの日程などをご相談して実現の運びとなりました。質問内容は小倉エージさんが考えて下さいました。レココレ誌からの取材に関してエリックも後日「非常に興味深く楽しかった」と語っていました。そのインタビュー記事は、レコード・コレクターズ誌2002年9月号に掲載されていますので、まだお読みでない方は是非ご覧になって下さい。

 来日中の取材は、4社の音楽メディアの方からオファーを頂きました。各社とも取材時間50分、その後エリックは10分休憩というスタイルで、午後1時から開始して午後5時まで、各社の取材を続けて受ける事に事前の打ち合わせで決めていました。でも、山口公演を終えた前々日の夜「エリックが疲れていて取材も午後から4社ぶっ続けじゃなく、途中1時間ほど休憩を挟んで欲しい」との連絡をハジメ氏から受けましたので、雑誌社の方に連絡してスケジュールを前日に調整し直したのです。取材して下さる方にも気分よくインタビューして頂きたいし、エリックにもベスト・コンディションで取材に臨んでもらいたいし、それを実現すべく努力するのは私の役目ではありますが、間際にスケジュールの変更を雑誌社にお知らせするのは申し訳なく、正直とてもツラかったです。けれど、雑誌社の担当の方も実際にインタビューに来られる方も「そういう事情なら」と取材時間の変更に気持ちよく応じて下さいました。やれやれ。ホッとしました。実は、何日か前に5社目のオファーも頂戴し、その日の午前10時からその1社に取材して頂く事を検討中だったのですが、エリックの体調の事もあり、中止せざるを得ない事になりました。でも、それでエリックには午前中ゆっくりと休養をとってもらえたので、結果的には良かったように思います。

 で、前夜泊まったホテルのロビーで午前11時に待ち合せ、ハジメ氏が運転するヴァンに乗って横浜から新宿へ移動。エリックは助手席、私は後部座席に座っています。「昨日はよく眠れました?」なんて話を初めはしてたんですが、特に理由もなく次第に無口になっていく車中の3人。小さくかけていたFMラジオもエリックが勝手に消してしまったようです。「機嫌が悪いのォ〜?」とも思いましたが、そうでもなさそうです。高速を通って都内に入ってからは道路が混んでいて、新宿の某ホテルに着いたのは、お昼の12時半頃でした。元々は私の部屋で取材を受ける予定でしたが「インタビューの方も含めてお茶でも飲みながらの方がリラックスできて良いですよ」とのハジメ氏のアドヴァイスもあり、1階にあるかなり広い喫茶店(というか天井高も凄い、豪華なティー・ルームって感じの空間)で取材できないものか、と考えました。そこのマネージャーらしき人に確認したら、意外にも「インタビューは問題無し。三脚を立てたりして通行の邪魔になったりしなければ、フラッシュを使ったカメラ撮影もOK」という返事で了解が取れて「それならこちらへ」と8人掛けくらいのテーブル席に案内して下さいました。「ラッキー!!」と心の中で叫んで、3人で簡単な打ち合わせ。取材前、和菓子と緑茶のセット、それに洋菓子と紅茶のセットを同時にオーダーしたエリックに「僕も実際にお会いするのは初めてだけれど、インタビューする人は皆んなエリック・カズ・ファンだから、別に意地悪な質問は出ないと思うのでリラックスして」などと説明。「ウンウン」と頷くエリックに「上手くやってくれよ」と心の中で祈りました。何だか初めて雑誌インタビューを受ける新人歌手のマネージャーになったような心持ち。私はソワソワドキドキして、落ち着けません。

 

 当日エリックを取材して下さったメディアとインタビュアーの方々は下記の通り。

 

●USENブロードネットワ−クス: インタビュアー: 中山義雄さん

●アコースティック・ギター・マガジン: インタビュアー: 山崎綾さん

●CDジャーナル: インタビュアー: 増渕英紀さん

●シンコー・ミュージック/THE DIG: インタビュアー: 宇田和弘さん

 

 どのインタビュー記事も2002年の各雑誌11月号ぐらいに掲載される予定(決定したら、スライス・オブ・ライフのホームページにアップさせて頂きます)。USENブロードネットワ−クスは、ホームページ< http://www.usen.com/music/rock_genre.html >でシンガー・ソングライター特集ページを開いて頂くと、そこにエリック・カズの写真が出てきますので、その下の『インタビューはこちら』をクリックして下さい。

 インタビューの内容そのものに私が今ここで詳しく触れるのは、礼儀に反すると思いますので、それぞれの記事が発表されるのを楽しみにお待ち頂きたいと思います。もし、掲載されなかった事柄でインタビューの際に私が憶えている面白い「質疑応答」がありましたら、各記事が出た後にこのコーナーに追加掲載させて頂く事にしましょう。

 2社の取材が終わった後の1時間休憩の時にエリックと2人でハジメ氏に教えてもらった近くのラーメン屋さんへ行った時の事。取材が半分終わって、半分ホッとした上に大好きなラーメンを食べに行くもんで、歩きながらエリックもニコニコ顔。「POOH、ラーメンはね、すっごく健康に良いんだ。それに気持ちをリラックスさせてくれるんだよ」「ホントに? 何かの本にそう書いてあったのを読んだんですか?」「いや、僕がそう思ってるだけさ。経験上、そんな気がするんだ」「ナルホド」。我々が行ったラーメン屋さんは豚骨スープのラーメン専門店で、2人とも普通サイズを注文。スープの表面は油でギトギト。結構こってりしてましたが「美味しいね」なんて初めは言い合いながら食べていたのに、しばらくするとエリックの様子が少し変です。特に急いだ訳でもない私が食べ終わりかけているのに、エリックはスープを少しすすっては水を飲んだりしています。「どうしたんですか?」と訊ねようとした瞬間「POOH、これ持って帰れないかな?」「どうして?」「食べ切れると思ってたけど、もうお腹一杯で....」「それなら、残したらいいです」「いや、持って帰りたいんだ。無理かな」「持って帰ったってホテルの部屋に電子レンジなんてないし、第一ラーメンがのびて全然美味しくない。後で食べたり出来ませんよ」「いや、いいんだ。このまま残して店の料理人をガッカリさせたくない。美味しかったんだから」とエリック。理由が判って「な〜んだ」と思った私。でも、その事を私に言おうか言うまいか、無理して食べようか、でもダメだ食べれない、なんて悩みながら、さっきから水をチビチビ飲んでたんだね、エリック。「何て心優しい人だ!!」と思いながら、私は努めて笑顔を見せつつ説明しました。「大丈夫。店の人に対して失礼じゃないし全く心配ない。何なら僕があそこにいる料理人に美味しかったって言いましょうか」「頼むよ」といった会話の後、お金を払ってから私が「ご馳走さま。美味しかったです。彼はちょっと残してますけど、でも、美味しかったって言ってます。すみません。」なんて話して、店を出ました。私の言葉の中にエリックも理解できる「すみません」を彼が聞き取ったかどうか、店の人の応対から「事なきを得たらしい」ことが判ったエリックは、もう晴れ晴れとした表情。そう言えばエリックは京都でラーメンを食べた時は「しょう油味のラーメン」だったかも知れないなぁ。「とんこつラーメンは食べた事ある?大丈夫?」って念の為に確認すべきだった、と私は少し反省。ホテルに戻る10分足らずの道すがら、エリックは周りの景色をカメラに収めようとカシャカシャやりながら、3つ目の取材時間の少し前に戻ってきました。雑誌社の方とはフロントでお会いして、それから私の部屋にお誘いするという手順をエリックに説明し「エリックは自分の部屋で待機しといてくれたら、取材の皆さんが僕の部屋に入った後で僕が呼びに行きますから...」と言うと「じゃあ、その時のドア・ノックは、こうしてくれ」と立ち止まって通路近くの壁を軽く叩いて(リズム譜じゃないので説明しにくいですが)『トーン[ツ]・トントントーン・トン』と聞かせるので、その通りリピートし全く同じに私が叩いてみせたら「オヌシやるな」という表情をチラッと見せて「忘れるな。そのノッキングが秘密の合図だ。じゃあ、部屋で待ってる」と立ち去りました。フロントで待っていらっしゃった取材の皆さんをスグに私の部屋にご案内してから、隣りのエリックの部屋のドアを秘密のドア・ノッキングで『トーン[ツ]・トントントーン・トン』と叩くと、中から「ドアを叩くのは誰だ。誰とも約束なんかしてないぞ。名を名乗れ!!」とエリックの怒鳴る声。こうなるとエリックの「小芝居」に付き合わないと仕方ないので「あなたの召使いのPOOHです。お願いですからドアを開けて下さい」と懇願すると、スーッとドアが開いて普通のヴォリュームの声で「POOH? その名前なら聞いた事がある」と言ってエリックが出てきました。「Eric, it's time to go」「OK, Pooh」。やれやれ、ようやく3つ目のインタビューの開始です。

 4社の取材を受けたエリックを傍で見ていて感心した事は「とても頭が良いなぁ」ということです。インタビューの直前に「今からの取材はアコースティック・ギター関係の雑誌社のものだから」と一言伝えると、質問を待つまでもなくオープン・チューニングの話に彼の方から触れ、インタビュアーの方が話題を膨らまし易いように持っていく気配りを見せていました。又、別のインタビュー直後には「たった今の取材では最初アトランティックのソロ・アルバムの事に質問が集中したんで、後半は出来るだけ『1000年の悲しみ』の事を話したつもりだけど、横で聞いていてどうだった?」と私に訊くなど、与えられた音楽メディアとの取材の機会を実のあるものにしたいという意欲が彼の言動から感じられ、とても嬉しくなったりもしました。1社目の取材の前に、「その場が和めば良いかな」と思い、エリックに『サウザンド・イヤーズ・オブ・ソロウThousand Years of Sorrow』の日本語のアルバム・タイトルは「1000年の悲しみ」という事を紙にローマ字で書いて教えておきました。すると、1社目の取材陣が到着するまで熱心に「センネン・ノ・カナシミ。センネン・ノ・カナシミ」と呪文のように繰り返し、練習していたエリックは、本番で新譜の話題になった時にチラッとメモを見て確認したあと、相手の目を見ながら「ニュー・アルバムの....センネン・ノ・カナシミでは....」と淀みなくしゃべってインタビュアーの方を驚かせていました。あるインタビューで、彼の歌詞や独特のリズム感覚に関して突っ込んだ質問をされた時の、ユーモアを交えながらの誠実な応対ぶりも私にはとても印象的でした。それに、午後6時すぎに4つ目の取材が終了した後、取材の方々が部屋を退出されるのを、エリックはエレベーターのドア前まで行って、「Thank you」と言って手を振っていました。

 取材が始まる前は「どのインタビューでも同じような質問が繰り返されて、エリックが途中で飽きてしまうなんて事態になったらどうしよう」と、そんな事まで考えていた私の心配は、ラッキーにも100%はずれました。各社のインタビュアーの方々が様々な角度からの質問を用意して下さっていた事も幸いして、エリック本人も充分楽しめ、恐らくは各雑誌の読者の方にも喜んで頂ける取材になったのではないかと喜んでいます。さっき「頭が良い」と言いましたが、それは「物事に対処する集中力とその持続力が違う、ズバ抜けている」と言い換えられるかもしれません。休憩なしの90分を越えるソロ・ステージは勿論のこと、コンサート終了後のサイン会でのファンの方に対する誠実な態度、そして今日の午後から6時過ぎまで丸半日かけた取材。そのいずれにも、その時々の気分で流されたりしない、勿論ちっぽけな損得勘定からでもない「その時に一番求められ、成すべきだと思う事。自分が納得して今一番したいと思っている事」を正しく理解して実行に移すパワーと精神力があるんですね、エリックには。ラーメンを残す事を躊躇して助けを求めてくる少年のようなデリカシーと、取材中に見せたこの強靱な精神力とがこのエリック・カズという1人の人間の中に合わせ持たれている事の摩訶不思議さ。エリックの人間的な魅力にあらためて気づかされた1日でした。

 

※続きは「エリック・カズ初来日ツアー滞在記 / その9」

 

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