POOHの世間話コーナー

エリック・カズ初来日ツアー滞在記 その6
 - その翌日 -

 翌9月10日(火)は、京都から広島に移動。そして同日の夜に広島公演がある日です。タクシーを拾って京都駅まで行くと聞いていたのですが、「荷物も多いし、それは大変だ」と思い、翌朝ホテルに行く事にしました。私がホテルに着いたのは午前8時少し前。まだ休んでいるとしたら、今どちらの部屋に電話しても迷惑な話だし「ここで待つしかないかな」と思い、レストラン前で待っていました。

 待つこと暫し。そのレストラン前のエレベーターのドアが開き、エリックとハジメ氏がにこやかに会話しながら登場。「あれ、来て待って頂いてたんですか」とハジメさん。「グッドモーニング、POOH。来てたんだ。元気かい」とエリック。「京都駅でお見送りとも思ったけれど、荷物持ちもせずに『さよなら〜』って言うだけだとヒンシュクだろうと思って」「ありがとうございます」なんて話しながらレストランの中に入ろうとした時、ハジメ氏はうっかり室内履きで来てしまった事に気づき、2人は部屋に一旦戻ることに。ほんの数分でエレベーターのドアが開いて再び2人が登場。すると、エリックがさっきと全く同じ調子で「グッドモーニング、POOH。来てたんだ。元気かい」と、今朝の彼の絶好調ぶりを示す「小芝居」をやったので、私が「友達と一緒に朝食を食べようと思ってここに来たんだけど、エリックっていうその友達が見つからないんだ」と言うと「きっとその野郎は中にいるよ。入って一緒に探そう」とエリック。

 朝食バイキングでエリックは最初トーストとオレンジ・ジュースだけを取って食べていました。彼にしては珍しく小食です。で、我々が選んだ和朝食のおかずを見て「美味しそうだな。それだと胃にやさしいかな」なんて言ってます。すると、ハジメ氏が「ここはご飯の横におかゆが置いてあった。あれが良いよ」と言い、エリックに「おかゆ」の説明。「試してみよう」と軽くご飯茶碗によそってもらったおかゆを大事そうに持ってテーブルに戻って来て、幾種類かの漬け物と一緒に「これは美味しい」と食べ始めました。「このピクルス(漬け物)をこのオカユの上に置いて一緒に食べたら行儀が悪いかな」「いや、そんな事はない。僕らだっていつもそうする」と我々2人が教えるとニコッと笑って、そんな風にして食べてました。おかゆをお代わりもして、すっかり元気そうな表情のエリック。

 「ハジメ。出発までにまだ時間はあるね。じゃあ3人で少し朝の散歩に行こう」と、ホテルを出て、そのまま鴨川添いの道を北に向かって歩きました。前日に続いて快晴の京都。エリックとハジメさんは2人とも短パン姿ですが、ジーンズをはいている私は、上はTシャツ1枚でもジワーッと汗ばんできました。四条通りまで歩き、Uターン。帰りは鴨川の川べりを歩き、途中から上にあがって木屋町通りを歩いてホテルまで。木屋町通りは京都市内の中心を南北に通るメイン・トスリート河原町通りより1本だけ東を通る細い通りなんですが、1本河原町通りから入るだけで車の騒音は殆どせず、左右の街並の日陰もあって午前中とはいえ炎天下を散歩をした我々の背中には(オーヴァーでなく)ヒンヤリとした風も感じます。そんな時でした。大きな荷台に氷の固まりを幾つか積んだ自転車を白いランニング姿の細身のお爺さんが「ごめんよ〜」という感じでチリチリンと軽くベルを鳴らして我々の横を通り過ぎました。京都の住人になって長い私も思わず「うわぁ、何だか夏の日本情緒タップリって感じの光景だなぁ」と思ってたら、エリックが「こんな所に住めたらイイなぁ」とシミジミ言いました。

 ホテルに戻って、楽器や荷物を持って降りてきて、チェック・アウト。同時にフロントでタクシーも呼んでもらって、広いロビーのソファーで車が来るのを我々は待ちました。2人の荷物を合わせると結構な量です。エリックのスーツケースだけは車が付いていて引っぱっていけますが、ギターも含めてあとの荷物は全て持ち上げて運ばないといけません。このホテルのロビーは2階にあって、時間的にはエレベーターを使うより階段を使って降りる方が早そうです。「お車が参りました」とフロントの方からの声。「そしたら、僕はこれとこれを持って....」と振り返ったら、そこに居るはずのハジメ氏の姿が見えません。「とにかく荷物を運ぼう」という事でエリックと私は急いで持てるだけの荷物を持って階段を降り、タクシーの運転手さんには「この方も含めて3人乗ります。トランクに荷物を入れといてもらえますか。まだ少し荷物があるんで僕が持ってきますから」と言い、もう一度赤い絨毯の階段を駆け昇りました。残りの荷物をタクシーに積み、エリックが助手席、私が後部座席に乗り込んで一息入れるか入れない位のタイミングで、ハジメ氏が「ゴメンナサァ〜イ。申し訳ありませェ〜ん」と叫びつつ、後部座席の私の横に入って来ました。「運転手さん、すみません。京都駅の新幹線側の方までお願いします」と彼が言って、タクシーは出発。おもむろにエリックが振り返って「いいか、ソーセージ・マン。もしも今度時間に遅れたら、その時はクビにするぞ。分ったな」と(冗談だよと判るように)オーヴァーにスゴんで言うと「I'm so sorry」とハジメ氏。私はずっと笑いっ放し。「状況がよく理解できないんですが、どなたか説明して私も話に寄せてもらえませんか」というような表情のタクシーの運転手さんは、ルーム・ミラーでこちらをチラチラ見ています。怒っているらしい外国人と謝ってる日本人とゲラゲラ笑ってる日本人が、中型タクシーの狭い空間にいるのですから「この3人にはどんなドラマが?」と運転手さんは思い悩んでいたかもしれません。

 午前10時過ぎに京都駅に着き、私は一緒にプラットフォームまで荷物を運んで見送り。指定席の車両が停まる乗降口近くで新幹線の到着を待ちます。まだ時間は少しありましたが、時間を気にしながらアセッてショッピングするのは好きじゃないらしいエリックは、売店で必需品の天然水だけを買い、「これで心配ごとは何も無い!!」という顔つきになりました。そして、2人は10時47分発の「ひかり115号」に乗り、広島に向けて旅立ちました。

「広島でのコンサートも頑張ってくれよォ〜、エリック!!」と祈りながら、2人に手を振りました。

 

※続きは「エリック・カズ初来日ツアー滞在記 / その7」へ。

 

 

 

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